blueprint / memories
ま だ 歩 き 出 さ な い
2023.12.25
傾聴すること
 "ferryman, named Vasudeva"



 



 ...「おそくなった。寝るとしよう。そのほかのことについては、口では言えない、友よ。おん身はそれを学ぶだろう。もう知っているかもしれない。見るがよい、私は学者ではない。話すことを心得ず、考えることも心得ない。私はただ傾聴すること、邪心を持たぬことを心得ているだけだ。そのほかには何も学ばなかった。...



 



 



 ...それを言い教えることができたら、おそらく賢者であろうが、私は渡し守にすぎない。私のつとめは人を川の向うに渡すことだ。多くの人を、数千人を渡した。彼らにとって私の川は旅の途中の障害にすぎなかった。彼らは金と仕事に向って、また婚礼へ、巡礼へと旅した。川が彼らのじゃまになった。渡し守は速やかに彼らを障害のかなたに運ぶためにいた。...



 



 



 ...だが、数千人のうちの数人、四人か五人の少数のものにとっては、川は障害であることをやめた。彼らは川の声を聞いた。川に耳を傾けた。川は、私にとって神聖となったように、彼らにとって神聖となった。さあ、寝るとしよう、シッダールタよ」



 



 text:"Siddhartha"
 ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』(高橋健二 訳)より抜粋



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カテゴリー:まだ歩き出さない
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