blueprint / memories
ま だ 歩 き 出 さ な い
2024.2.21
けっして行われなかった旅
 "The Book of Disquiet"



 



 ...私の出発したのは、誰も知らない港だ。私はいまだにそれがどこの港だったのか知らない。というのも、そこには行ったことがないのだから。同じように、私の旅行の目的はつねに、実在しない港を探し求めることだった。...



 



 ...そして、その港は入港ということにつきるのだ。忘れられた湾。完璧に存在しない都市のあいだを流れる河の河口。...



 



 ...私は旅をした。ただそれだけのことだ。旅をするのに数カ月も数日も要さなかった。いや、いかなる時間も費やさなかったと説明する必要はなかろう。私はもちろん時のうちを旅したのだ。...



 



 ...しかし、時を一時間とか一日とか一カ月と数えるような、時のこちら側を旅したのではない。私が旅したのは向こう側なのだ。あちらでは時は測ることができない。時は過ぎるが、それを測ることはできない。言ってみれば、自分が生きているのを見る時間よりも速いのだ。



 



 text:"Livro do desassossego"
 フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』(澤田直 訳)より抜粋




 m
quietroom
website:
thisquietroom.com
お問い合わせ:
thisquietroom@gmail.com
オンラインショップ:
thatquietroom.com
カテゴリー:まだ歩き出さない
記事一覧へ戻る
© quietroom 2016-24.